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健やかなる時も③ 3

「すみません、遅くなりまして」 一斉に立ち上がった我々に対して、彼は10度の敬礼をする。 ブルーの 防塵マスク レスピレーター 越しに、綺麗な鼻筋が見え。 くっきりとした二重瞼の下から、黒目がちな瞳が覗いている。 その容貌が、あまりにも優に似ていたので。 僕は一瞬、はっとしたのだが。 それを見透かしたかのように、一佐が口を開いた。 「似てるだろう?わたしも最初、有賀かと思ったんだ」...

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健やかなる時も③ 2

その翌日は、着任の手続きと挨拶回りで終わってしまい。 ラワルピンディの陸軍病院へ辿り着いたのは、夕方になってからだった。 夕食時だったせいか。 軍病院内のカフェテリアは、酷く混み合っていた。 世界各国から集まった医療者が、所狭しとひしめき合う中。 偶然、知った顔を見付けた。 「やあ、キャプテン!」アリー医師は、笑顔で握手を求めてくる。「久し振りだね!」...

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健やかなる時も③ 1

突然訪れた、漆黒の闇の中で。 聞こえてくるのは、機銃の掃射音。 それと、押し殺した自分の呼吸。 ただならぬ緊張感の中、頬を伝う汗を感じながらも。 何故か、目を開けることすら出来ない。 左手の指先で、周囲を探ろうとした時。 背中を揺るがす振動と、紛れもない爆発音を聞く。 迫撃砲の着弾を確信するたびに、心臓は鋭く跳ね上がり。 それでようやく、生きていることを知覚した。...

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炎暑

      苛烈な夏だった。 自分の中のいろいろなものが、蒸散させられたような気がしている。 この一ヶ月で僕は4kg痩せ、頚椎を痛め。 いろんなものに腹を立て、いろんな人と喧嘩して、少しだけ無口になった。 まあいいや、言い訳はやめ。 ようやく涼しくなってきたので、ちょっと頭を冷やして、書けるだけ書いてみよう。              

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無口なOctober.

   ―― 遠くを旅してきた。うらぶれた街に住む、うらぶれた人々。そこに群がる、うらぶれた観光客。人生、十何度目かのOctober。飛び交うのは異国の言葉、漂うのは異国の匂い。僕はここにいて、あそこにいて、そして、何処にもいない。...

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地下鉄にて

   熱心にスマートフォンを繰る老婆。凄まじい違和感と、若干のリスペクト。声を潜め、すげーな、と、連れに話しかけると、別に珍しくもないよ、と、そっぽを向く。誰とやり取りしているのか、知る由もないけれど、指先での会話は、僕が降りたあとも続いていた。上に、下に。左に、右に。    

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老頭児

   ――...

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confidence

   ―――...

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標的

      行きつけの店に顔を出すのが、最近億劫だ。 ドアを開けた途端に向けられる、脂肪に埋もれた笑み。 獲物を狙う獣の目だ。 出没するのは、とことん勘違いしている中年女。 しかも既婚。 下らない自慢の数々、太い手首に食い込む安物のジュエリー、だらしのない体つき。 個人的に、女性のスタイルは気にならない方だし、 年上は、昔から嫌いじゃない。 不倫も経験済みだ。 けれど、...

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漂泊

      ―― 最後に会ったのは何時だったか。 たびたび帰国していたのも知っていた。 けれどとっくに僕等は終わっていた。 もう7年も前に。 知らせを聞いて駆け付けた時、痩せ細った腕は痛々しいほどで。 僕は多分、これが最後になるだろうと思っていて、 結局、そういうことになった。 もう苦しまなくていい。 そう思いながらも、気持ちは晴れなくて。 何も手につかない状態が続いていた。...

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健やかなる時も③ 3

「すみません、遅くなりまして」 一斉に立ち上がった我々に対して、彼は10度の敬礼をする。 ブルーの 防塵マスク レスピレーター 越しに、綺麗な鼻筋が見え。 くっきりとした二重瞼の下から、黒目がちな瞳が覗いている。 その容貌が、あまりにも優に似ていたので。 僕は一瞬、はっとしたのだが。 それを見透かしたかのように、一佐が口を開いた。 「似てるだろう?わたしも最初、有賀かと思ったんだ」...

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健やかなる時も③ 2

その翌日は、着任の手続きと挨拶回りで終わってしまい。 ラワルピンディの陸軍病院へ辿り着いたのは、夕方になってからだった。 夕食時だったせいか。 軍病院内のカフェテリアは、酷く混み合っていた。 世界各国から集まった医療者が、所狭しとひしめき合う中。 偶然、知った顔を見付けた。 「やあ、キャプテン!」アリー医師は、笑顔で握手を求めてくる。「久し振りだね!」...

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健やかなる時も③ 1

突然訪れた、漆黒の闇の中で。 聞こえてくるのは、機銃の掃射音。 それと、押し殺した自分の呼吸。 ただならぬ緊張感の中、頬を伝う汗を感じながらも。 何故か、目を開けることすら出来ない。 左手の指先で、周囲を探ろうとした時。 背中を揺るがす振動と、紛れもない爆発音を聞く。 迫撃砲の着弾を確信するたびに、心臓は鋭く跳ね上がり。 それでようやく、生きていることを知覚した。...

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炎暑

      苛烈な夏だった。 自分の中のいろいろなものが、蒸散させられたような気がしている。 この一ヶ月で僕は4kg痩せ、頚椎を痛め。 いろんなものに腹を立て、いろんな人と喧嘩して、少しだけ無口になった。 まあいいや、言い訳はやめ。 ようやく涼しくなってきたので、ちょっと頭を冷やして、書けるだけ書いてみよう。              

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無口なOctober.

      ―― 遠くを旅してきた。 うらぶれた街に住む、うらぶれた人々。 そこに群がる、うらぶれた観光客。人生、十何度目かのOctober。 飛び交うのは異国の言葉、漂うのは異国の匂い。僕はここにいて、あそこにいて、 そして、何処にもいない。   写真を撮り、歩を進め、 他人として、無機質な風景を眺める。焦点は、合っているようで、まるで合っていない。同じ場所にいて、同じ風景を眺めている筈なのに。...

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地下鉄にて

      熱心にスマートフォンを繰る老婆。凄まじい違和感と、若干のリスペクト。声を潜め、すげーな、と、連れに話しかけると、別に珍しくもないよ、と、そっぽを向く。誰とやり取りしているのか、知る由もないけれど、指先での会話は、僕が降りたあとも続いていた。上に、下に。左に、右に。        

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老頭児

      ――...

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標的

      行きつけの店に顔を出すのが、最近億劫だ。 ドアを開けた途端に向けられる、脂肪に埋もれた笑み。 獲物を狙う獣の目だ。 出没するのは、とことん勘違いしている中年女。 しかも既婚。 下らない自慢の数々、太い手首に食い込む安物のジュエリー、だらしのない体つき。 個人的に、女性のスタイルは気にならない方だし、 年上は、昔から嫌いじゃない。 不倫も経験済みだ。 けれど、...

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漂泊

      ―― 最後に会ったのは何時だったか。 たびたび帰国していたのも知っていた。 けれどとっくに僕等は終わっていた。 もう7年も前に。 知らせを聞いて駆け付けた時、痩せ細った腕は痛々しいほどで。 僕は多分、これが最後になるだろうと思っていて、 結局、そういうことになった。 もう苦しまなくていい。 そう思いながらも、気持ちは晴れなくて。 何も手につかない状態が続いていた。...

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